[32]正弦歯形歯車設計システム


32.1 概要
  古くからポンプギヤ用として提案されてきた正弦曲線で構成される歯形を基準ラックとする歯車(以下,正弦歯形歯車)は,インボリュート歯車に比べすべり率が小さいため動力損失が小さくなります.そのため,かみ合い時の摩擦発熱量が減少し,歯の温度上昇も押さえられると考えることができる.このことから,プラスチック歯車の温度上昇に伴うプラスチック材料の許容曲げ応力の低下も小さくなりプラスチック歯車の負荷容量も大きくなると期待できます.
  また,正弦歯形歯車のかみ合いは,インボリュート歯車に比べ,かみ合い点における相対曲率が小さく,歯の幾何形状についても危険断面における歯厚が大きいことなどから歯面接触応力,歯元曲げ応力の低下をもたらし,負荷容量増加に有利に働くことも期待できます.以上の理由により用途によっては有効な歯形であると考えています.

32.2 歯車の種類と歯形
  (1)歯車の種類 :外歯車(平歯車およびはすば歯車)
  (2)歯 形          :正弦曲線歯形

32.3 基準ラック
  正弦歯形歯車の基準ラックを図32.2に示します.基準ラックの歯溝を切れ刃とするカウンタラック(ホブ等)が創成する歯形を歯数毎に求めることができ,このカウンタラックによって創成した正面歯形を基に成形研削も容易に可能です.


32.4 歯車諸元入力
  図32.3に,歯車諸元の入力画面を示します.正弦歯形歯車の転位係数の和は常に0でなければなりません.


32.5 歯車寸法
  歯車寸法,かみ合い率,すべり率の計算結果を図32.4に示します.正弦歯形歯車のような非インボリュート歯車は,理論中心距離でのみ正しくかみ合いますが,本ソフトウェアでは故意に中心距離を変更することもできます.


32.6 歯形
  図32.5に正弦歯形歯車のかみ合いを示します.インボリュート歯車の場合,接触線は直線となりますが,正弦歯形歯車の接触線はS字線となります.そのため,かみ合い始めの点pからかみ合い終わりの点qまでが,かみ合い角度となります.従って,インボリュート歯車の場合,相手歯車の歯数が多くなるとかみ合い率は増加しますが,正弦歯形歯車のかみ合い率は,大きな増加はありません.図32.6の歯形レンダリングの歯面中央に接触線を確認することができます.また,図32.7 および図32.8にCAD作図例を示します.

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32.7 すべり率
  図32.9に正弦歯形歯車のすべり率を,図32.10にインボリュート歯車のすべり率と正弦歯形歯車のすべり率を重ね合わせた図を示します.ただし,インボリュート歯車の諸元は正弦歯形歯車と同じとしています.
  図32.10より,正弦歯形歯車(ピニオン)のすべり面積は,インボリュートに比べ1/3.5 と小さく,正弦歯形歯車(ギヤ)のすべり面積は, 1/1.90と小さいことが解ります.


32.8 かみ合い率の変化
  インボリュート歯車(図32.11)と正弦歯形歯車(図32.12)のかみ合い率の変化を示します.ピニオンの歯数を18に固定してギヤの歯数を18,25,30,50,100と変化させたときのかみ合い率を図32.13および表32.2に示します.その結果,インボリュート歯車は,ギヤ歯数が増加するとともにかみ合い率も大きくなりますが,正弦歯形歯車は,ほとんど変化がありません.


32.9 伝達誤差
  伝達誤差解析結果を図32.14および図32.15に示します.


32.10 さいごに
  正弦曲線歯車の正面かみ合い率は,インボリュート歯車に比し て小さいですが,すべり率がインボリュート歯車より小さいため 発熱量の低下と効率向上が期待できます.

プラスチック歯車(m1, z48)の実験例では同諸元のインボリュート歯車に比して効率が向上しています.詳細は,付録[E]をご覧ください.

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